−きょうだいシリーズ−
第九弾   白石蔵ノ介の双子の姉






「蔵〜。お弁当出来たで〜。」
「何や、また作ってくれたん?」
「彼氏の分作るついでや。」
「……………自分のついで、でええやん……」

にこにこ笑う姉(と言ってもほんの数時間だけ先に生まれただけやけど)を見て、俺は心の底から溜息をついた。
身内の俺が言うのも何やけど、俺の姉貴、は整った顔しとる。
街に行けばようナンパされたり絡まれたりするし、学校で告られてるんもしょっちゅうや。
そんなが…かれこれ3ヶ月くらい前の話やろか……彼氏作ったっちゅー報告を俺にしてきおった。
俺はシスコンやないつもりや。別にに彼氏が出来ようが彼氏とデートしようが俺は気にならへん。
気にならへん…………と、思っとったんや。

「蔵〜、明日は部活休みなんやろ?」

登校途中(今日は朝練無かったから久しぶりにと登校や)、信号待ちしとったらが尋ねてきた。
そういや昨日、オサムちゃんがそんなこと言うてはったなー……。
そんなことをボンヤリ考えつつ「ん?あぁ、せやで。」と答える。

「休みなんて久しぶりやん〜、めっちゃ楽しみ〜」
「何や、明日どっか出掛けるん?」
「へへ、せやねん。しかも謙也から誘ってくれてんで?」
「…謙也から、なぁ…。ヘタレの割にやる時はやるんやなぁ。」
「失礼やで、蔵。ウチの彼氏に文句でもあるん?」
「や、別にないよ。」

に睨まれてちょっとだけ肩を竦める。
俺かて別にと喧嘩したいわけちゃうし。

「謙也はなぁ、別にヘタレとちゃうよ。ただ不器用なだけや。」
「不器用、なぁ…。まぁええんとちゃう?」
「引っかかる言い方やなぁ。蔵ノ介。言いたいことあるんやったらはっきり言い。」
「せやから、別に無いて。こそ突っかかってくるやん。」
「………………うっさいわ。」

少しだけ俯くに、これは何やあったなと俺の直感が告げた。
でもそれを聞いて素直に答える姉やない事は、よーく知っとる。

「謙也に浮気でもされたんか?」
「アホ言いなや。謙也はそんな器用なことは出来へん。」

プイッと顔を背けるに思わず苦笑してしもた。
子どもみたいな拗ね方は、いくつになっても変わらへんねんな。

「蔵のその笑顔、めっちゃ腹立つ。」
「そんなん言うたかて、こればっかりはどないしようもないで。」
「わかっとる。けど………」

そう言ってまたむぅっと口をつぐむ
俺にどうないせぇ言うんやろうな。
包帯を巻いた左手の指で頭を掻く。こうなったは俺にはどうにも出来ひん。
困っとったら唐突にが顔を上げて、俺を見据えた。

「あ、せや。蔵、ウチ蔵に言わなあかんことがあってん。」
「何や?」
「部活中に、なんぼそれが蔵の決め台詞や言うたかて『エクスタシー』は無いわ。なんやねん絶頂て。テニス関係あらへんやんか。
そもそもそんな言葉、中学生が使うこと自体間違ってんねん。」
「………それこそ別にええやろ。」
「いや、あかんわ。蔵の姉として、弟のおかしな所は指摘したらんと。それが姉の役目っちゅー話や。」
「…語尾が謙也みたいになっとるで。」
「彼氏やもん、言葉くらいうつりますー。」
「あ、そうですか。」
「可愛くないわ〜…昔はちゃん、ちゃん言うてウチの後をついてきとったのに…」
「いつの話やねん。幼稚園も行かん頃の話やろ。」
「そんなことはどうでもええねん。蔵、良い子やからエクスタシーは止め。そんなんしとったら…えぇと…氷帝のあほべクンみたいになってまうで?」
「あほべやなくて跡部や。あ・と・べ。」
「何でもええやん。あほべも跡部も変わらへんやん。」
「大分変わるで。いや、それよりそんなん跡部ファンに聞かれたら袋叩きにされるで。」
「跡部ファンてそんな凶暴なん!?」

驚くに俺は「気をつけなあかんで〜」と軽く笑う。
そんな俺には「ウチは大阪に居るんやし、大体跡部ファンでもないし関係あらへんわ」と言ってきたが、びびっとるんバレバレや。
ホンマ、可愛えわ。

「ま、安心しなさい。もしが襲われそうになったら謙也と助けに行ったるから。には指一本触れさせへんで。」
「……助けに来るんは謙也だけでええわ。姫のピンチ助けるんは王子の務めやろ。」
「俺は生まれてからずーっとのナイトやってるつもりやってんけど?」
「っ…な、何が騎士や。蔵なんか番犬にもならへんわ。そんな毒手とか言うて純情な子ぉ騙すようなことして。金太郎君が可哀相やろ。」
「しゃあないやろ。こうでもせんとあのゴンタクレ、抑えられへんのや。」
「せやかて……」
「ま、これ以外で金太郎抑えられる手段でも思いついたら辞めたるわ。俺は部長やし、部をまとめていかなあかんからな。必要とあらば何でもやったる。」

苦笑して、俺より頭一つ低いところにあるの頭をポンポンと叩くと、不機嫌そうやったの顔も「しゃあないな」って感じに崩れてしもた。
こういう顔も、身内の贔屓目無くしても可愛えと思う。
せやけど。

、白石〜。おはよーさん。」
「「謙也、おはよー」」

後ろから声をかけられて振り向くと、ちょい気怠げな顔した謙也が立っとった。
挨拶を返して謙也が追いつくのを待つ。
その時、チラリと片割れ…の顔を見る。

「謙也、今日はいつもより早いな?」
「んなことないで。いつも通りや。」
「スピードスターやから歩くのも速いんちゃう?」
「……(とついでに白石)が見えたから、ちょっとだけ急いだだけや。」
「ふふ、ありがとさん。」

こういう顔、すんねや。
彼氏の前の姉貴の顔、なんてそうそう見るモンや無い。
何やねん、この甘々な顔は。初めて見たで。
………………謙也の前やったら、こんな顔でおるんやな。
心なしか、謙也の顔も緩んどる気ぃするわ。

「…………………あほらし。先行くで、お二人さん。」

返事を聞かずに歩き出し、軽く片手をあげる。
二人からしたら俺がお邪魔虫やねんから、ま、しゃーないわ。

「あ、せや。謙也。」
「何や?白石。」
「泣かせたりしたら、許さへんからな。」
「………肝に銘じとくわ。」
「ん、ならええねん。」

謙也の返事に、今度こそ止めることなく足を進める。
さっきまで片割れが居ったはずの左側がちょっと寒く感じるんは、きっと気のせいや。
が嬉しそうに笑っとってくれたら、俺はそれでええんや。

「……やっぱ、ちょっとはシスコンでもええわ。」

誰にでも無く呟いて、ちょっとだけ振り返った。
そこには楽しそうに笑うと、柔らかく微笑んでの話に耳を傾ける謙也がおった。
二人の手は繋がれとって(謙也から出来るはずないからあれは絶対から握ったんやな)、それがまた仲の良さを見せつけているようやった。

「あー……ホンマ、あほらしいわ……」

二人のことを俺が心配する必要はないねん。
謙也はしっかり姉貴が好きで、姉貴も……も謙也がめっちゃ好きで。
それで、ええねん。

「謙也やったらそう簡単に手ぇ出したり出来ひんやろうしな。」

だから、このまま。
もう少しは、俺の姉貴でいてもらってもええと思うんや。
少なくとも、彼氏のついでとかいいながらもしっかり俺の好物が弁当のおかずに入ってる間は。

「あー……昼ご飯が楽しみやな。」

空に向かって一つ呟いて。
さっきよりも心持ち足取り軽く、俺は教室へ向かった。




END


拍手ありがとうございました!!

はい、ということで、割とリクエストの多いきょうだいシリーズ最新作です。
暫くはきょうだいシリーズを拍手お礼作品にしていきます。
第一弾は、テニミュ熱でヒートアップしてしまった四天宝寺の聖書、白石蔵ノ介君です。


…なんのこっちゃよく分からない出来です。
そして相も変わらずキャラといい言葉といい超偽物。
何というか…何故か若干黒い白石蔵ノ介くんです。
何がしたいのかよく分かりませんが、まぁとりあえず。
彼はお姉ちゃんが大好きなんですよ。別に禁断の愛とか言うわけではなく。


感想・リクエスト等、お待ちしておりますー♪